計算に絶対使ってはいけないCRS(座標参照系)とその理由
Webメルカトル(EPSG:3857)や平面計算でのWGS84(EPSG:4326)など、距離・面積計算に使うと重大な誤差を生む座標参照系(CRS)の技術的解説。
なぜ「表示用CRS」で距離や面積を計算してはならないのか?
すべての座標参照系(CRS: Coordinate Reference System)は平等ではありません。「地図を見せるため(可視化)」に設計された投影法と、「正確に測るため(工学・測量)」に設計された投影法があります。「見せるため」のCRSをそのまま距離や面積の幾何計算に使用することが、GISおよび測量データ処理における失敗の最大の要因です。
❌ 計算に使用してはならないCRS(危険リスト)
1. EPSG:3857(WGS 84 / Pseudo-Mercator / Webメルカトル)
歪みの原因: 赤道から離れるほど南北・東西の両方向に巨大な幾何学的拡大歪みが生じます(北緯60度で面積が約400%、距離が200%に拡大)。
用途: Web地図(Google Maps、OpenStreetMap等)の正方形タイル表示のみ。距離・面積の幾何計算には絶対に使用してはいけません。
2. EPSG:4326(WGS 84 経緯度)を平面直交として計算
歪みの原因: 「度(Degree)」をそのままデカルト座標(メートル)として三平方の定理で計算すると破綻します。経度1度の実距離は赤道で約111kmですが、北緯60度では約55.8kmとなり、緯度によって連続的に縮尺が変わります。
用途: データ保存・交換・GNSS生データ。距離計算を行う場合は必ず「測地線計算(Geodesic: Vincenty法やKarney法)」を用いて楕円体上で計算する必要があります。
3. 定義不明な「Local / Unknown」座標系
歪みの原因: 原点位置や楕円体パラメータがメタデータに記録されていないため、実世界の地球表面と照合できません。
✅ 工学・幾何計算に安全なCRS(推奨リスト)
1. UTM座標系(EPSG:32601〜32660 / EPSG:32701〜32760)
特徴: 正角横メルカトル図法(Gauss-Krüger)。6度の経度帯ごとに分割され、ゾーン中心子午線での縮尺係数は0.9996。ゾーン内の縮尺歪みは0.1%未満に抑えられます。
最適用途: 広域土木、ナビゲーション、ドローン飛行計画、軍事(MGRS)。
2. 平面直角座標系(JPR 19系 / EPSG:6669〜6687)/ US State Plane (SPCS)
特徴: 日本国内を19地域、米国各州を複数ゾーンに細分化した高精度等角投影。投影歪みは1/10,000(0.01%)未満に厳密制御されています。
最適用途: 高精度公共測量、土木施工、地籍調査、建築確認申請。
3. 正距方位図法(Azimuthal Equidistant)
特徴: 指定した中心点からのすべての地点への距離が真の直線距離として正しく保たれます。
最適用途: 無線電波到達圏解析、レーダー探知範囲、空港・港湾の到達半径管理。
CRS歪みと計算誤差の比較表
| 座標参照系 (CRS) | EPSGコード | 投影タイプ | 10km距離計算時の誤差 | 面積計算の適合性 |
|---|---|---|---|---|
| Webメルカトル | EPSG:3857 | 正角(球体近似) | +2,000m〜+5,000m(緯度依存) | ❌ 致命的(過大評価) |
| WGS84 (平面扱い) | EPSG:4326 | 地理座標(非投影) | 数km〜計算不能 | ❌ 致命的(幾何崩壊) |
| UTMゾーン54N | EPSG:32654 | 横メルカトル(楕円体) | ±1m〜4m(0.04%以内) | ✅ 高精度 |
| 平面直角第IX系 | EPSG:6677 | ガウス・クリューゲル | ±0.1m以内(0.001%以内) | ✅ 極めて高精度 |
よくある質問(FAQ)
A: Google MapsのUIはWebメルカトルタイルで表示されていますが、距離測定ツールの内部ロジックではWebメルカトル平面ではなく、地球楕円体上の「測地線(大円距離 / Geodesic Distance)」を直接計算しているためです。地図画像上でピクセル長を測ると間違った値になります。
A: 単一の固定縮尺係数での補正は危険です。Webメルカトルの縮尺歪みは緯度の正割(secant)に従って連続的に変化するため、狭小な敷地であっても南北方向に非線形な歪みが生じます。必ずGISソフト(QGIS/ArcGIS等)で平面直角座標系やUTMに再投影(Reproject)してからCADへエクスポートしてください。