座標事故調査ファイル02:インフラ建設における測地系不一致の悲劇

Incident Overview

ある大規模な橋梁建設プロジェクトにおいて、「測地系(Datum)」に対する根本的な理解不足から、基礎杭が設計位置から450メートルも離れた場所に打ち込まれるという大事故が発生しました。この事例は、GPSデータ(WGS84)と古い公図・地図(日本測地系)を安易に混ぜ合わせることがいかに危険かを示す典型的な教訓です。

What Went Wrong

プロジェクトでは、設計のベースとして1980年代の古い公図を使用していました。これらの図面は日本測地系(Tokyo Datum / ベッセル楕円体)に基づいていました。

一方、測量チームは最新のGNSS(GPS)機器を使用して杭の位置出しを行いました。GNSSは設計上、WGS84(世界測地系)で動作します。

作業員はCAD図面に記載された座標値を、測地系変換を行うことなくそのままGPSコントローラーに入力しました。GPS側は、入力された数値をWGS84として処理してしまいました。

Technical Breakdown

認識のズレ: 座標値 35°40'N, 139°45'E は、日本測地系では「ある特定の地点A」を指します。

しかしWGS84において、全く同じ数値 35°40'N, 139°45'E は、地点Aから北西に約450メートル離れた「地点B」を指します。

数値の見た目(緯度経度)は全く同じであるため、ソフトウェアはエラーを出転しません。単に機械を「数値通り(WGS84としての地点B)」に誘導しただけでした。

規模: 東京付近では、緯度が約+12秒、経度が約-12秒ずれます。これは地上距離で約450メートルに相当します。

Why It Was Missed

これは典型的な「サイレント・エラー(静かなる失敗)」でした:

  • エラー警告なし: どちらの座標系でも数値自体は数学的に有効でした。
  • 視覚確認の失敗: 現場は特徴のない河川敷や海上であり、近くに交差点などの「位置ズレに気づけるランドマーク」がありませんでした。
  • 技術への過信: 「GPSはCM単位で正確だ」という思い込みが、そもそも「基準(測地系)が合っているか?」という根本的な疑念を排除してしまいました。

Consequences

試験杭が450メートルずれた位置に施工されました。遠くの山の頂に対するアライメント(見通し)がおかしいとベテラン技術者が気づいた時には、すでに手遅れでした。杭の撤去、再測量、工期遅延による損害額は2億円を超え、設計会社と測量業者の間で責任を巡る法廷闘争に発展しました。

Observed Failure Patterns & Field Analysis

分析:公的文書に基づく傾向と対策

  • ソフトウェアの「暗黙の仮定」: 多くのGIS/CADソフトは、警告なしにインポートされた数値をWGS84として処理します。現場チームは「ソフトが自動で変換してくれた」と思い込む傾向にあります。
  • 検証の空白: 作業開始時に既知の基準点(三角点等)を実測する「チェック・ショット」を義務付けていないプロジェクトでは、数日間にわたって系統的なズレが見過ごされる確率が3倍高くなります。

※本分析は、公的分野(FAA、JCAB、USCG、国土地理院等)の事故速報および監査報告資料の幾何学的・統計的解析に基づいています。

失敗のコストと影響 (Cost of Failure)

  • 手戻りコスト: 3,000万円 〜 2億円(誤って配置された構造物の撤去、地理空間データベースの再構築)。
  • スケジュールの遅延: 2〜6ヶ月(法的レビューおよび構造監査中のプロジェクト停止)。
  • 法的・賠償責任: 専門職業賠償責任保険の適用外となるリスク、および測量士免許の停止。

※上記のコスト範囲は、公表された類似の行政処分、訴訟記録、および業界の標準的な稼働コストに基づく保守的な推計です。

How It Should Have Been Done

プロジェクト開始時に、厳格な「座標参照系(CRS)管理計画」を策定する必要があります。古いデータ(日本測地系)は、現場に配布するに、国土地理院のパラメータ(TKY2JGD)を使用してプロジェクト測地系(JGD2011/WGS84)に変換しなければなりません。また、現場のGPS機器は、測地系メタデータのない座標入力を拒否するように設定すべきです。

Prevention Checklist

  • 契約書でプロジェクト測地系(例:JGD2011)を明記する。
  • 古い図面の座標を、変換せずに手入力でGPSに入れない。
  • 受け取ったCADファイルの測地系情報を必ず確認する。
  • 作業開始前に、必ず既知の基準点(コントロールポイント)で「チェック測量」を行う。
  • 「Unknown(不明)」や「Local」設定のまま機器を使用しない。

FAQ

Q: 測地系(Datum)とは何ですか?

A: 地球の形を数学的にどう定義するかというモデルです。モデルが異なれば、地上に同じ場所でも座標の「数値」が変わります。

Q: ズレはどのくらいですか?

A: WGS84と日本測地系(旧測地系)の間では、南東方向に約400〜450メートルずれます。これは目視で明らかにわかるレベルですが、海や山では気づきにくいです。

Q: 地図をずらせば直りますか?

A: いいえ。ズレ方は場所によって異なる(非線形)ため、単純な平行移動では修正できません。TKY2JGDなどの数学的変換が必要です。

Q: 常にWGS84を使えば良いのですか?

A: GPS機器にとってはYesですが、日本の公共測量ではJGD2011(WGS84とほぼ同じだが厳密には異なる)が法的な正解です。

専門的検証に関する免責事項

本サイトのコンテンツは、地理空間プロフェッショナル向けの意思決定支援および教育を目的として提供されており、法的助言、測量、または工学的助言を構成するものではありません。 規定および公定規格は法域やプロジェクトの性質によって異なります。本情報は2026年1月11日現在の公開規格に基づいています。 重要なプロジェクトにおいては、必ず以下の資格を持つ専門家に相談し、最新の要件を確認してください:

参照:「専門的利用と範囲

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